抄紙設備、動力設備等の点検・整備及び機械加工
泉宮さんは自動車整備会社を経て、現在のダイオーメンテナンス株式会社に入社されました。
「子供の頃から機械を触ったり、分解するのが好きでした。家の洗濯機やドライヤーを分解しては、親に怒られていたことをよく覚えています(笑)。分解して一つ一つの部品を見たり、どう組み合わさっているのかを見るのが楽しかったです。自動車整備会社に勤務していましたが、その過程で自動車という限られた分野だけでなく、幅広く機械整備をやっていきたいという気持ちが芽生えてきました。その時、ダイオーメンテナンス株式会社が製紙機器をはじめとして様々な機器の整備を事業としていること、また人材育成や資格取得に熱心に取り組んでいることを知り、入社しました。」
自動車整備の分野から抄紙・パルプに関する機械整備の分野へと変わりましたが、仕事を始めた当初はどのようなことを感じましたか。
「自動車整備とは全然違って新鮮であり、もう無我夢中で仕事に取り組みました。当然苦労もありました。海外のメーカーや国内大手メーカーの機械設備のメンテナンスをする際は、その会社から指導員が来ます。しかし、彼ら指導員の話には専門用語が多く、最初は意味が全然わかりませんでした。これではいけないと思い、専門書などで勉強しました。」
先輩技術者からも多くのことを学んだそうです。
「昔のいわゆる職人さんは、細かな数値管理より、永年の経験に基づく感覚を非常に大切にされていました。そこで、私は感覚の部分も大切にしながらも、自分が学んだ知識・理論に基づいた、もっと数値をシビアに捉えるようにし、それを日々の業務に活かしてきました。また、なるべく最新で便利な工具や自分でつくった工具を積極的に使い、昔ながらのやり方を少しずつ変えて、安全性と作業効率を向上させることにも取り組んできました。」
現在は、パルプ・動力メンテナンス部 パルプメンテナンス課 統括主任として現場で活躍され、また職場の安全対策や、後進・若手の技術指導にも取り組まれています。
「現場では若手の技術者が中心となって活躍してもらい、私は一歩引いて指導・補佐をする立場として業務にあたっています。しかし、若手の技術者は、目の前の作業に必死で余裕がありません。周囲が見えなかったり、より安全な環境、状態で作業するという意識が希薄です。そこで作業に入る前に周りのどこに危険が潜んでいるかを確認させたり、危険であればその場でしっかり指導しています。」
(写真:ダイオーメンテナンス株式会社(四国中央市))
機械保全技術のポイントと技能継承への取り組み
技術力向上のために、特に努力されてきたことはどのようなことでしょうか。
「業務に関する資格取得に取り組みました。自分から進んで学ぼうという意識でしたので全く苦にはなりませんでした。また機械設備の専門メーカーの講習会を受講する際には、自分が経験した故障・トラブルを思い出しながら学びました。疑問に思ったことやもっと知りたいことがあれば必ず自分で調べ勉強してきました。資格や講習会で学んだことは、日々の業務にすぐ活かすことができましたし、業務をしていく中で理解がさらに深まり、段々と面白くなっていきました。入社5年目頃、先輩方が施工している作業の内容が理解できるようになり、自分の考えた方法で業務に取り組めるようになりました。それまでに一級技能士資格取得に取り組んでいましたが、現場や専門書等で学び、知識が身についたことが大きかったと思います。」
機械保全・メンテナンス業務のポイントを教えてください。
「故障やトラブルには必ず何か原因があり、また多くの場合、色んな要因が絡んでいます。例えばどこにどんな力が加わって、不具合が生じてしまったために故障をしたとか、その原因を分析し、それによって打つ対策を決めます。しかし、ただ単純に元通りに機械を組み直せば良いわけではありません。更に一歩進んで、再び同じ故障が起きないよう工夫を加えることが重要です。故障やトラブルには同じではなく本当に色々なパターンがあり、未だに私も勉強中です。ものづくりの世界にはある意味ゴールはないかもしれませんが、この保全・メンテナンス業務も同じだと思います。」
この仕事のやりがいや喜びはどのようなことですか。
「故障の原因がはっきりわかり、対応の道筋が見えた時がメンテナンスの醍醐味です。故障したものを正常な状態に戻すために、また同じ故障を起こさないために、こうすれば良いのではと自分で考え、それを実行し、それで機械本来の性能を取り戻すことができれば本当に嬉しいですね。」
技能継承への取り組みについて教えてください。
「私は平成8年よりベアリングの知識、油圧機構等について実技を中心に指導しています。また、全社を挙げて技能検定等関係資格取得を推奨しており、有資格者による講習会を開催したり、問題集やテストピース等をサポートしたりして、技能継承活動に取り組んでします。また、一方で私たち熟練技能者の技術・技能をデータベース化することにも、全社を挙げて取り組んでいます。」
若手の技術者が、技術を習得していくにはどうすれば良いと思いますか。
「何もわからない状態で業務をしても、興味ややる気はなかなか湧かないと思います。できるだけ早い段階で機械保全や仕上げの技能士資格取得を目指して勉強して、ある程度の知識を身につけて業務に取り組んでほしい。そうすれば、いままでの見方とは全然違って面白くなっていき、色んな所に興味が湧いてきます。もっと難しい機械にチャレンジしたいと思うようになり、自然とステップアップしていくと思います。」
後進を指導する楽しさは、どのようなことですか。
「若手の技術者が、徐々に知識や技能を身につけていることを知った時にはとても嬉しく思います。それまでは、ただただ聞いているばかりだったのが、ちゃんと知識や経験に基づいて、自分の意見を言ってきたり、別のやり方を提案してきたりした時は、成長したと実感します。」
(写真:現場風景 取材時泉宮さんに工場内部、部品の説明をしていただきました)
若手技能者、若者へのメッセージ
若者がものづくりから離れていることが言われていますが、ものづくりの大切さや素晴らしさを伝えるためにはどうすれば良いと思いますか。
「学生の頃から、自分なりに工夫したり、また苦労しながら、見て、触って、ものをつくることを体験させ、その充実感を味あわせることが必要だと思います。若手の技術者には自分のしている仕事に興味を持たせることが一番です。例えば、当社では比較的若い時期から、現場の責任者として抜擢し、我々熟練技能者が補佐として業務にあたるということも数年前から取り組んでいます。各工程でどんな道具を用意すれば、またどんな手順で進めれば作業がスムーズになるのか、こうした段取りがわかるようになります。また工程表通りに全体の作業を進めようとするようになり、仕事に対する責任感が生まれ、やりがいを感じるようになっています。」
若手技能者、若者へメッセージをお願いいたします。
「自分の興味を持ったことを大事にしてほしいですね。ちょっとずつ掘り下げていって、もし途中で自分に向いていないと感じたとしても、違う角度から見れば新たな何かがあるはずです。焦ることなく自分が納得するまで突き詰めていってほしい。そうすれば将来が見えてくると思います。興味のあることを仕事として、あるいは趣味として一生懸命になり続けられることは、素晴らしい。まず、色んなことにチャレンジして、興味が持てるものを見つけてください。」
今後の目標をお聞かせください。
「会社の中で、パルプ製造設備のメンテナンス技術をもっと底上げしたい。特に若年技術者の知識・技術力の向上に取り組み、さらにレベルアップさせたいと思います。その結果、安全面や作業効率も上がります。この業種は本当に幅が広く奥が深い。私自身もまだまだ知らないことも多くありますので、今後も今以上に技能を究めていきます。
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