老舗和菓子店の3代目として
栗林さんは明治35年創業の和菓子屋「栗林洋菓子舗」の3代目として生まれ、幼い頃からお菓子の世界で活躍することを夢見て育ちました。
「本当に幼い頃より、祖母や両親を始め周りから3代目であるということ意識させてくれながら育ちましたので、将来は菓子職人としてやっていこうという自覚は自然と芽生えました。迷ったことは一切ありません。大学で経営学を学び、卒業後大阪の洋菓子店で念願の洋菓子職人として修行を始めました。」
修行を始めた時にあった73kgの体重が、修行を終えたときには55kgになっていたという厳しい修行に励み、技を磨きました。
「同じ年齢の同僚は当然私よりも数年修行しているわけですから、彼らはある程度技を身につけていました。その同僚達にはやく追いつこうと必死になって、仕事の段取りから、いわゆる雑用的な仕事、技を磨くにしても、人の2、3倍努力し、その中で一切手抜きはしませんでした。その修業時代があるからこそ、今の自分があると思っています。」
厳しい修行を耐えるには、ある思いがあるために挫けたりすることはなかったそうです。
「将来は必ず自分の店を持つという夢がありましたので、修行がどんなに辛くても続けることはできました。」
現在は3店舗の洋菓子店を経営し、また洋菓子職人としても技術の研鑽に励み、洋菓子製造技術の第一人者として高い評価を得ています。
(写真:寿提夢津島店)
ものづくりへのこだわり
栗林さんは洋菓子の中に和のセンスや技術を取り入れるなど新しい方向性を提案し、積極的に創作意欲に満ちあふれた作品作りに取り組んでいます。その中でも、地元の食材「どぶろく」を使った「ほろ酔いプリン」がお客様に好評を得ており、新聞やテレビで取り上げられるなど話題を呼んでいます。
「この『ほろ酔いプリン』は、比較的普段あまり甘いものを食べることがない男性やお父さん方のために作りました。ご家庭によって色々あると思いますが、比較的男性の方はあまり甘いものを食べることが少ないと思います。そこでこの『ほろ酔いプリン』を食べていただくことで、お母さんやお子様の輪の中に、お父さん方男性が入るお手伝いができればいいなという発想です。おかげさまで、男性の方から女性の方まで、幅広い方々に喜んでいただいています。」
技術力を向上させることについて大切なことは、どういったことでしょうか。
「お菓子をつくるという一見同じことの繰り返しの中で、少しでも精度を高めようとか、もっと上手くなろうとか、常に今よりレベルアップすることを意識することです。お客様のお口に入るものを作っているわけですから、真剣に取り組まないといけませんし、美味しいと言っていただくにはどうすればいいのかということを考えれば、同じことの繰り返しだと思いながら作っていては、いいものをつくることはできません。どの世界もそうでしょうが、ひたむきな姿勢が大切です。」
ものづくりで大切なことを教えてください。
「ものづくりには人間性や、作っているときの感情が出るものです。周りの人に、面白いとか、前向きだなと思われるようになるなど、技術力はもちろん人間性も磨くことが必要です。そして、技術や感性など自分の持っているもの全てを注ぎ込むことです。最近ほろ酔いプリンを食べていただいた方に、『とても美味しかったです。感動しました。』と言っていただきました。よく美味しいと言っていただくことはありますが、『感動した。』と言っていただくことはなかなかありません。こういったお客様の声を聞けて本当に幸せで、職人冥利に尽きます。今後もこういった声を少しでも多く聞けるように洋菓子作りに取り組んでいきたいですね。」
(写真:ほろ酔いプリン)
技能継承の取り組み
社内ではOJTを中心に技術指導を行い、愛媛県洋菓子協会主催の技術講習会で指導を行うなど積極的に技能の継承に取り組んでいます。
「ミキサーボールの洗い方から、パレットナイフ等の持ち方など基本的なことから指導をしています。私がこれまでに学んできたことは全て後進に伝えていきます。」
また技能検定委員を務め、多くの技能士の誕生に貢献し、また愛媛マイスターとして講演を行うなどものづくりの面白さや素晴らしさを伝えています。
「是非、技能士資格取得にチャレンジしてほしいです。普段見落としてしまいそうな基本的なことや技術的に細かい点など、多くのことを学べます。ただ、資格を取得するためには、仕事を終えてから勉強しなければならないと思いますので厳しい部分はあると思いますが、チャレンジすることで技術的にも人間的にも一回り大きくすることができます。」
(写真上:技能検定委員を務める栗林氏、写真下:宇和島市立津島中学校での講演の様子)
若手技能者、若者へのメッセージ
若手技能者にメッセージをお願いします。
「やはり日々の繰り返しの中で、どんどんレベルアップしていってほしいです。そのためには、将来自分の店を持ちたいとか、お店に勤めるとしたらお客様に喜んでいただけるお菓子を作ることなど夢や目標を定め、それに向かって努力していってほしいです。技術的には基本を大切し、他の職人さんの技を見て学んでほしいです。」
道を切り開いていくことの大切さについて語ってくれました。
「私の修行1年目、技術的なことが全然身についていないときに、思い切ってコンテストにチャレンジしました。結果は出せませんでしたが、その時に出会った審査委員の一人が、2件目に修行することとなるお店の職人さんでした。その方には、修業時代から長い間本当にお世話になっています。また、コンテストにチャレンジしていた他の職人さんと友達になり、ライバルとしてお互い切磋琢磨し、技術力の向上に励んだものです。皆さんも是非、コンテストなどに積極的に挑戦してください。自分の実力を試すいい機会になるはずですし、もしかしたら私のように良い出会いに恵まれるかもしれません。」
最後に人生観について語っていただきました。
「日々笑って過ごしたいですね。良いケーキができて嬉しい時や、お客様が美味しいとか感動したと言った時の笑顔の様に。単純なことですが、以外と難しいです。人はもしかしたら、笑った数だけ魅力的になるのかも知れませんね。」 |