精密小型部品の機械加工
今回は西条市にある株式会社長曽鉄工所の技術者を代表して、生産技術グループリーダーの中川さんにお話を伺いました。
中川さんは最初精密機械部品を製造する会社に就職し、フライス盤や旋盤による機械加工業務に従事しました。
「ものづくりに興味があったのかもしれませんが、まだまだ子供で何も分からないまま入社しました。最初は先輩方がしていることが将来自分ができるようになるのだろうかと不安な気持ちもありました。指導方法もいまの時代とは全然違っていて、怖く厳しかったです。最初の業務はいわゆる単純作業でしたが、その中で技を磨き、まじめにしていたらいつか先輩方がしている業務をさせてもらえるだろうと、コツコツ地道にやってきました。」
入社3年目にして同僚の誰よりも早く先輩方と同じ機械を使っての仕事を任されるようになります。
「やっと先輩方と同じ機械を使わせてもらえるようになったのは良かったのですが、先輩が1日に500個の機械加工をしたとしたら、私は250〜300個ぐらいしか加工できませんでした。昔は刃物を自分で研いでいた時代です。その刃物を作るのにも非常に苦労しました。昔は皆が競争みたいにやっていたのですが、その中で自分は加工数がなかなか伸びなくて、情けなく、さすがに落ち込むこともありました。」
それでもいつかは追い越そうと努力を続けます。
「一番腕の良い先輩の技を必死に観察して、その技を盗みました。また先輩と同じように刃物が研げるように毎日毎日何度も一生懸命研ぎました。追いつけ追い越せの思いで技を磨き続けて、とうとう先輩方と同じ数を加工できるようになりました。いつもは怖い先輩が『中川君、よく腕が上がったな。』と言ってくれました。本当に嬉しかったのを今でも鮮明に覚えています。やればできるんだと自信になりました。」
そしてついに先輩方を追い越します。
「当然先輩と同じことをしていただけでは、超えることはできません。回転数や切削条件、刃物等を自分なりに工夫しました。入社4、5年目には、先輩方の1〜2割増しに加工することができるようになり、先輩方が私に追いつけなくなりました。その努力を認めていただいてその後、社内の種々の機械にチャレンジさせてくれるようになりました。そのときにはそれぞれの機械で一番の腕を持つ先輩の技を盗み、それに自分なりの工夫を加えることで技を磨き続けました。そのうちに色々な技術を身につけることができました。何か難しいものを製造するとなったら私に任せていただけるようになりました。」
入社して10年、社内では一番の技術力を持っていると周りから高い評価を受けるようになり、新設された試作品の製造や治具の開発、機械メンテナンス業務を行う技術部門に抜擢され、以後、安全性や生産性を大きく飛躍させる機械や、治工具の開発、機械のメンテナンス業務に携わり、永年貢献されてきました。
平成14年、株式会社長曽鉄工所に入社し、生産技術グループリーダーとしてその豊富な経験と知識や、また優れたアイデアを駆使して、お客様からの多種多様な機械部品製造の依頼に応え、尚かつ高品質であるとお客様から高い評価を得られる製品を製造するための、様々な治工具、半自動機械などを開発しています。
「時間が経つにつれて、先輩方は自分を早く一人前にするために厳しく指導にあたってくれたんだと気がつきました。今思えば厳しい先輩や上司の方に指導していただいたおかげで、人並みの仕事ができ、今の自分があると思っています。」
(写真上:株式会社長曽鉄工所『株式会社長曽鉄工所の技術力を最大限に発揮し、お客様に安心して頂ける製品を提供する』との品質方針です。写真中:整理整頓の行き届いた工場内部、写真下:中川さんが作った数々の治工具)
旋盤加工技術のポイントと技能継承への取り組み
中川さんはマシニング、ボール盤等の治工具や、メンテナンス用機械部品の製作、精密機械部品の試作、自動機械、機械改造による専用機をつくることを得意とし、数多くの機械設備全てに精通し、メンテナンス作業などは会社の第一人者として生産全般を監督しています。特に安全面を重視した省人化の実現によって、作業効率の向上、生産性の向上に大きく貢献してきました。技術を向上させるポイントについてお聞きしました。
「やはり一番腕の良い先輩の技を盗むことです。それだけでは先輩以上にはなれませので、常に改善意識を持って自分なりに工夫してプラスアルファを加えることです。専門的な勉強をして、創意工夫、妥協せずにやればできる、やり出したらやりきる、やり遂げると言う気持ちが大事です。私も何回も失敗もしてきましたし、時間もかかったことありましたが、それでも諦めずに技術を磨いてきました。論よりも実行です、まずは一度トライしていくことで何らかの解決方法が浮かんできます。」
技術を習得していく喜びや、治工具の開発、機械メンテナンスの楽しさについてお聞きしました。
「例えば、以前ある部品を製造する半自動化の機械を製造した際には、いままでベテランの技術者が一日500個製造していたのを、初心者でも一日4,000個製造するようになった機械があります。そうやって省人化、効率化により生まれた余力を新しい付加価値の増加に振り向け、無駄排除に繋がり、また安全性、生産性の向上に寄与して、誰もが不可能と考えていたことをやり遂げることは、本当に達成感や満足感があります。」
生産性や効率性を大幅に向上させる数多くの治工具、半自動機械を開発してこられましたが、そのアイデアはどこから生まれるのでしょうか。
「家に帰ってリラックスしているときや、布団の中で考えると意外と良い案が生まれることが多かったです。また、子供用の車のおもちゃとかを何となく眺めているとふとアイデアが思い浮かんできたこともありました。ヒントは会社の中にも、普段の生活の中にもあります。」
社を上げて技術力の向上、技能継承にも熱心に取り組んでおり、現在中川さんを中心に技術指導を行い、数多くの技能士の誕生に大きく貢献しています。また、平成20年に開催された中央職業能力開発協会主催若年者ものづくり競技大会旋盤の部で、見事優勝した当時県立東予高等学校機械科3年生だった青野剛大君も、株式会社長曽鉄工所で行われたインターンシップにおいて中川さんの旋盤の技術指導を受けています。
「我が社では、技能士資格はもちろん関連職種の資格取得に力を入れております。いまでは数多くの技能士が生まれ、会社全体として技術力の向上、人材の育成に役立てています。また、私のアドバイスや技術指導が少しでも青野君の力になれたかと思うと嬉しいです。今後も彼は益々伸びていくでしょうし、これからの活躍を楽しみにしています。」
(写真上:旋盤ヘッドの摺り合わせをする中川氏、写真中:中川氏が開発した油圧制御機器部品を製造加工する半自動化機械、写真下:数多くの技能士が誕生しています。)
若手技能者、若者へのメッセージ
若手技能者、若者にメッセージをお願いします。
「失敗することを恐れずに何事にも挑戦し、自分が納得できるまで成し遂げていってほしいです。また先輩方の優れた技術を早く習得し、自分なりに勉強し、創意工夫を加えて先輩の技術を追い抜いてほしいです。また、現在ある機械設備や技術は今以上のよいものがあると、常に改善意識を持ってほしいです。また技術を習得することにもなかなか難しく苦労をすることも多いと思いますが、石の上にも3年という言葉があるように、じっと我慢して諦めずにいれば、その苦労が実を結ぶと思います。そして、更に技術的に奥深いところに踏み込むには10年はかかります。10年経ってからが本領発揮だと思っていてください。」
ものづくりの素晴らしさを伝えるためにはどのようにすれば良いと思いますか。
「いまの子供達は私が子供だったときとは違い、自分で遊び道具を作って遊ぶという経験が非常に少なくなっています。またその親の世代の人たちも、豊かな時代を生きてきたため、自分でものを作って日常生活に役立てるという経験も少ないです。子供達にものづくりの大切さや技能の素晴らしさを伝えるためにも、その親である大人達が普段の生活の中、又は趣味の世界で、自らものをつくるという素晴らしさを体験する必要があると考えています。その体験を持って、子供と一緒にものづくりを体験することが、よいのではないでしょうか。また、地域でお年寄りと子供の交流の場を設けて、お年寄りから知恵と工夫に富んだ遊びを、子供達に継承していくのも一つの方法だと思います。」
今後の目標についてお聞かせください。
「私の持つ技術を全て伝えて、後進の技術者を育成することです。私が教えたことを、後進ができるようになるのは本当に嬉しいです。」
今回取材させていただいた株式会社長曽鉄工所さんの現場は、非常に清潔感に溢れ、機械部品や工具、設備がとても整理整頓されており、精密で高品質、お客様から高い信頼を得ているという一端をうかがい知ることができました。今回取材させていただいた生産技術グループリーダーの中川さんは、非常に優れた機械加工技術を持つと同時に、発明家であると感じました。本当に数多くの生産性、効率性、安全性を高めた治工具、半自動機械をつくられていました。ちょっとした工夫や、身近なものから得られた創造性の豊かなアイデアを実際に形にし、機械設備に活かしていくことで、生産性等を大幅に向上させることを目の当たりにし、アイデアを活かすことのできる高レベルな技術を持っていることと、またその大切さを学ばせていただきました。
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