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熟練技能者から若者達へ
 県内の熟練技能者とものづくり現場の紹介

熟練技能者の紹介  熟練技能者が活躍する現場とは
● 取材編 〜熟練技能者は熱く語る〜 ● ものづくり工場の紹介
● 紹介編 〜熟練技能者の紹介〜  


  

  旋盤技能の現場編 〜船舶用大型部品の機械加工〜

松下 富美男 氏 株式会社新来島製作所

 住所 愛媛県今治市大西町脇甲882番地の3
 電話 0898-53-3080
 URL http://www.skdy.co.jp/
 

 
マツシタ  フミオ
松下 富美男 氏

製造部 製造課 造機係 造機職 職長


(昭和29年8月生) 55歳


プロフィール
昭和52年株式会社新来島どっくに入社、現在はグループ会社である株式会社新来島製作所で職長として現場を監督しています。機械加工に携わってきた年数は30年以上、これまで数多くの船舶の推進軸やラダーストック、プロペラ軸摺り合わせなど大型部品を加工し、かつ精密な精度で仕上げることができます。また平成12年に高度熟練技能者(輸送機械器具製造関係、機械加工職種)に認定され、県内工業高校への技術講習会で講師を務めるなど、技能の継承に大きく貢献しています。


船舶用大型部品の機械加工

今回は船舶用軸系装置、舵の製造事業を行っている株式会社新来島製作所の技術者を代表して、松下富美男さんにお話を伺いました。松下さんは15歳の時、大阪市にあった関西大手電機メーカーが運営する技術者養成学校に進学し、旋盤、機械組立、金型などを3年間学びました。

「養成学校は最先端設備が整っていて、技術力を学び、身につけるにはとても良い環境でした。授業内容は、理論はもちろん機械を実際に動かして学ぶという実践を重視ししたものでした。また旋盤、組立や金型など、幅広く学ぶことができました。」

養成学校では、学生の多くが寮での共同生活です。

「親元を離れて寮生活し、学校へ通うなど、私にとっては初めてのことばかりで、不安な気持ちも大きかったです。入学して間もない1年生の夏に、風邪を引いて寝込んでしまいました。本当に辛く不安になりました。その時、一緒の部屋の2、3年生先輩方が心配して本当に面倒を見てくれました。不安な気持ちや、優しさに触れ感謝する気持など様々な感情が入り混ざって、涙が溢れました。今となっては考えられませんが、そんなこともありましたよ(笑)。後にも先にも涙を流したのはその一回です。実践を中心とした授業と、寮生活での先輩や後輩、先生方々とのやり取りの中で、技術的に、人間的にも磨かれていきました。私のベースは、あの養成学校時代だと言えます。」

養成学校卒業後、その関西大手電機メーカーに就職し、機械組立、旋盤業務に従事しました。数年の勤務の後、「船が大好きで昔は船乗りになりたかった。」と言う念願の造船を手掛ける株式会社新来島どっくに入社しました。若手のころについてお聞きしました。

「先輩方はまさに『技を盗む』ことで技術を向上してきたようですが、私はある程度までは先輩から教えていただきました。更に、それ以上技量を伸ばすにはやはり自らが向上心を持って前向きにな努力を必要としました。もともと機械を扱うことが大好きで、入社以来『機械加工でやっていくんだ。』という前向きな気持ちを持って技術の向上に励みました。なかなかうまくいかないことや疑問があれば、何回でも先輩によく聞きに行きました。先輩のアドバイス通りにやってみたら見事にうまくいくので、『やはり先輩はすごいな。』と思うと共に、『いつか絶対先輩を追い越してやる。』とも思ったものです。」

現在はグループ会社である株式会社新来島製作所の現場で、30名以上の技術者を指導、監督、育成しています。

(写真:株式会社新来島製作所工場「『品質は企業の命』との経営理念を掲げ、顧客重視の観点にたち、法規・規格及び契約上の顧客要求事項を満足する製品を顧客に提供する」という品質方針を掲げています。)


旋盤加工技術のポイントと技能継承への取り組み

松下さんは汎用旋盤、NC旋盤を使った大型(大きいもので長さ18m)の船舶用軸やラダーストックの切削加工を得意としており、軸径公差、芯振れ公差共に100分の5o(場合によっては100分の2mm)という非常に高い要求精度の中、社内トップの精密さとスピードで加工することができます。過去国内外大手造船所35社以上のプロペラ軸、中間軸、軸継手、ラダーストックなど数多く携わり、船尾軸受けのはめ合い加工にも優れた技術をお持ちです。また、旋盤機械の専用治具を作ることができます。技術をどのようにして磨いてこられたのでしょうか。

「本当に一つ一つ目の前のことをコツコツとクリアすることの積み重ねです。秘訣もコツもありません、強いて言うなら努力です。ただ決して後ろ向きになるようなことはありませんでした。途中で諦めたり、無理だと思わずに何とかしたらできるのではと、いつも可能性を信じていました。」

入社して数年が経ったころ、初めてNC旋盤が導入されました。

「一人である程度の業務をこなすことができるようになったころ、NC旋盤が導入されました。先輩方は『汎用旋盤の職人』でしたので、比較的若い私がNC旋盤担当者として抜擢されました。機械的な仕組みは理解はしていましたが、当時プログラムというのはまだまだ我々には浸透していませんでした。そこで、プログラムの本を購入して、家に帰って毎晩必死に勉強しました。現在我が社の設備の中心はNC旋盤となっています。」

旋盤技術を向上せるためのポイントを伺いました。

「汎用旋盤とNC旋盤を扱ってきましたからよくわかるのですが、やはりNC旋盤は本当に便利です。プログラムさえ間違っていなければ、その思った通りに動いてくれますから。でも、その便利さゆえに、甘えてしまってはいけません。その甘えがあるために、せっかく築きあげてきた精度向上のための技術力や作業の効率に関して後退してしまう危険性があるからです。機械に人間が『甘える』のではなく、人間が機械に『優位に立って使いこなす』ことが重要です。また我々にとって鉄は『生き物』です。同じように見える鉄も、昨日と今日では変化してきますし、それぞれ材質も違います。そして、機械の調子や削る刃物も日々変化します。こういったことも意識することは大切ではないでしょうか。」

社内ではOJTを中心にして技術指導をし、熱心に技術者を育成しています。また平成12年に高度熟練技能者(輸送機械器具製造関係、機械加工職種)として認定されて以来、県内工業高校で技術講習会の講師として、活躍されています。

「近年若者がものづくりに興味、関心を失いつつあるということをよく耳にしますが、教えた生徒さんの中にはすごいなと思う熱心な高校生が何人もいました。まだまだ日本のものづくり、技術力は伸びていくだろうと感じるぐらい。また将来の技術者になっていくであろう高校生の皆さんと交流することができ、本当に楽しかったです。今後もっと高校生たちがものづくりに対して興味、関心を持ってもらえるように講習会などを通じて、力になれればと思っています。」

(写真上:加工前の大型軸部品、写真中:大型旋盤機での加工、写真下:高校生に指導をする松下氏)


若手技能者、若者へのメッセージは『前向きな気持ち』と『素直で謙虚』

若手技能者にメッセージをお願いします。

「私が言うのもおこがましいかもしれませんが言わせていただくとしたら、『前向きな気持ちを持つ』ことと『素直で謙虚』であることです。これまで私も何度も壁にぶつかり、失敗もしましたが、『機械加工でやっていくんだ。』という常に前向きな気持ちを持って技術を磨いてきました。器用な人もいれば、不器用な人もいて、器用な人は1年で習得する技術も、不器用な人は3年かかってしまうかもしれません。しかし、3年かかったとしても身につくものです。そうやって地道に努力し、素直に前向きに頑張っていってほしいです。また技術力が上がり色んなことができるようになっても、上には上がいることや、まだまだ一人前ではないといった謙虚さも持ってほしいと思います。そして、いまの自分があるのは育ててくれたご両親がいるからとか、仕事でも先輩が技を磨き、より良い伝統を築いてきたからなど、周りの人に感謝をする気持ちを忘れずにいてほしいです。」

ものづくりの魅力を教えてください。

「大型部品ですので、完成したときは本当に達成感があります。また、ドックで船にその部品が取り付けられて、無事に進水式を迎えて運行するときには、本当に『頑張ってよかったな』と思います。又、ものづくりの素晴らしさを理解してもらうためには、幼い頃からものづくりの体験をしてもらうことが大切ではないでしょうか。」

今後の目標をお聞かせください。

「私の引退後に、株式会社新来島どっくや株式会社新来島製作所の活躍を見たり、耳にすることです。引退する日までには、私の持つ全ての技術を部下が受け継げられるように、これからも社内の技能継承に全力で取り組みます。」


今回取材させていただいた株式会社新来島製作所では、船舶用大型軸を加工している現場を見学させていただきました。大きいもので長さ18mもあり、本当に迫力のある現場でした。松下さんは、ものづくりの面白さを伝えることにも熱心で、今後若手技術者の皆さんに自分たちが造り上げたものが船に取り付けられている様子や、その船が進水式を迎え運行し、社会のお役に立っていることを実感できるような機会持つことも、ものづくりの面白さ、やりがいを実感する一つの方法であるとも考えており、そのような機会をもっと設けていきたいとも語っていました。また、松下さん達技術者の皆さんが、日々大変な努力をして造り上げた数多くの部品一つ一つによって、旅客船や自動車、石油運搬船が造られることで、私たちの生活に豊さや便利さ、快適さが生まれていることを実感させていただきました。


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