表具師一筋64年
表具業界でご活躍されている俊野清さんにお話を伺いました。俊野さんの学生時代は戦時中で、若者や大人達は戦争に行ってしまい働き手がいないため、小学生の頃から仕事を手伝っていたそうです。
「食べるものも、勉強するための本や鉛筆もなかなか手に入りませんでした。本当に辛い学生時代です。ものごころついたころから、父が仕事しているのを見て、ある時は『ここを持っとけ、そこを押さえとけ!』などと言われながら、仕事を手伝っていました。そして、15歳の頃から本格的に修行を始めましたが、私らの時代は技についてわからないことを聞いたら、『そんぐらい見ればわかるやろ!』と怒られてしまい、手取り足取り教えることの無い時代ですので、父の技を真剣に観察しながら、習得しました。」
20歳の時、父喜正さんから家業を引き継ぎ、これまで表具一筋に、数多くのふすまや掛け軸の表装に携わってこられています。ものづくりの魅力を教えてください。
「魅力というよりは、食べるために必死に仕事をこなしてきただけですよ。昔は仕事場で寝て、少し睡眠してすぐ仕事に取りかかるぐらい、本当に忙しかったです。」
表装のコツについては。
「一言では言えませんが、父が職人達ををうちに招いては食事をしていたときに、冗談半分技の事にも話題が及び、その中でちょっとした技術向上のヒントが得られました。職人は一言われたら、十わかるもので、そうやって得られたヒントを実践して、技を磨くこともありました。素材に関しては、本当は和紙素材がいいんですが、時代の流れとともに紙の材質がどんどん新しくなっていくことに対して前向きに取り組んでいかなければなりません。何よりもお客様のニーズに応えることが大切です。」
表具の知識について教えていただきました。
「本来は掛け軸に付ける風鎮は、お客様が来たら外すものです。また額などは、お客様に座っていただく上座から見えるところに、正対して飾るものです。こんなことを言ったら古い人だなんて言われそうですけど、せっかく話を聞きにきてくれたんだから、私から知識を持って帰らんとね。」
永年、この業界でご活躍されていますが、この仕事をしていて良かったことは何でしょうか。
「あるお客様に『あんたの仕事は気持ちがええ。』なんて言われたことが本当に嬉しく、いまでも良く覚えています。また、この仕事を通じて、坂村真民さんや坂田虎一さんたちと出会い、お付き合いをさせていただいたことが良かったですね。」
坂村真民氏や坂田虎一氏と俊野さんは本当に親しく、家族ぐるみのお付き合いをしてこられていました。特に坂村真民氏とは頻繁に会い、一緒に四国八十八ヶ所を巡るなど、まるで親子のような関係だったそうです。これまで永年にわたり技能検定委員を務め、数多くの後進を育成するなど技能の継承に熱心に取り組んできました。また、3名の息子さんも表具の世界へ進み、表具の本場京都で修行を積んだ息子さんがいて、現在俊野清美堂にてご活躍されており、親子3代にわたって技と職人魂を受け継いでいます。今後の表具業界について一言お願いします。
「昔とは建築物の様式や構造が大きく変わってきたため、表具の仕事も段々と減っているのが現状で、誠に残念ながら、今後業界が縮小し表具の仕事を続けていくことが難しくなっていくであろうことをとても心配しています。ただ、それでも息子らが私の後を継いで、精だしてこの業界で頑張ってくれていることは、非常に嬉しく、誇りに思います。」
(写真1:平成21年度職業能力開発促進大会出展作品
写真2:父のような存在と語る坂村真民氏の書に永年携わってきました。
写真3:坂村真民氏の石碑の一つが俊野清美堂にあります。
写真4:息子孝平さんの平成21年度職業能力開発促進大会出展作品
写真5:現場風景−伝統の技を駆使し、200年以上前に作られた古紙を使うなど、
一つ一つの作品づくりにこだわり続けています。)
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