ものづくりの原点
前田さんは、現在、伊予郡砥部町にある工房で「世の中にない新しい木工工芸作品」を作るという創作活動を中心にご活躍されています。子供時代の遊び道具を作ることが、ものづくりへのきっかけとなりました。
「小学生の時から近所の同世代の子供達で集まって遊ぶ時や、学校での授業の中で、刃物を使い木や竹を削って遊び道具を作っていました。その頃から頭に思い浮かんだものをノートにデザインし、木を削ってそれを形にすることがとても好きで、木工職人になることを夢見ていました。」
その夢を叶えるため今治職業訓練校木工部に進学し、本格的に木工を学びました。
「授業は本当に楽しかったです。何もかも忘れて、夢中になれました。夜遅くまで教室に残ってやっていたので、先生方には迷惑だったかも知れません(笑)。表情には出しませんでしたが、誰よりも上手くなりたい、負けたくないと思って道具の使い方や、技を習得しました。家具やテーブル、婚礼セットなど一通りのものを作れるようになりました。」
そして、ついに夢である木工職人としての道を歩み始めます。
「最初に建具店に就職しました。自分にはそれなりに家具やふすまををつくる自信はあったのですが、新人の私の仕事は先輩方のお手伝いです。ただ、負けず嫌いな性格なので、誰よりも上手くなりたいと思って技を磨いていく中で、いつのまにか同期や先輩方を追い越して、色々な仕事を任せていただくようになりました。」
以後、技能の研鑽に努め、24年間の建具店勤務の後、昭和62年独立し「もく工房」を創業しました。
「建具店での仕事の多くは、決められたデザインや形のものをつくることがメインです。独立後、もちろん建具の仕事もしながらも、自分の思い描いたデザインを形にするという創作活動にも本格的に取り組んできました。」
(写真:伊予郡砥部町 工房にて)
ものづくりのこだわり
前田さんは愛媛県職業能力開発促進大会や県内職業訓練校訓練祭り等にも創作意欲溢れる作品を出展しています。そのデザインはとても独創的で、大きな注目を集めています。
「デザインに関して特に勉強したわけではありません。普段から頭に思い浮かんだラインをノートに適当に落書きし、そこからちょっと面白いなと思うラインができれば詰めていきます。大げさに言ったら頭にピンと来ます。デザインを考えていたら、きりがありません。寝ているときも、日常生活の中でも、デザインを思い浮かべています。」
そのデザインを形にできたときは、どのような気持ちでしょうか。
「何とも言えません。どの作品も満点ではありませんが、満足できるものを作れたという気持になります。形にしていく過程の中で、とても調子よく作っているときは、夜もなかなか寝付けません。朝もパッと起きてすぐ作業に入っています。本当に夢中になれます。」
平成21年度愛媛県職業能力開発促進大会にも、作品を出展していだだきました。
「満足度は80点ぐらいです。やはりどの業界でもものづくりに100点はないのではないでしょうか。つくった後で、ここはこうしとけば良かったなとか思うものです。そして、展示している作品を沢山の方が足を止めて見入っている姿を見ると、本当につくってよかったなと思います。」
県内学校等で木を使った椅子や、ゴム鉄砲などのものづくり体験教室などの活動を通じて、ものづくりの楽しさを伝えています。
「私が子供に教えると言えばおこがましいですが、昔は木や竹でこんなものを作って遊んでいたということを伝えていきたいです。最近の子供達はゲームで遊んでいますので、刃物や金槌などを使うことが初めてというお子さんも多いです。先日も近くの中学校にお邪魔して、生徒と一緒に椅子やゴム鉄砲を作ったのですが、本当によろこんでくれました。この体験を通じて、木や刃物に触れて、ものをつくることの楽しさや、自分で作りあげたものを使う喜びを、少しでも感じてくれればとの思いです。今後もチャンスがあれば是非参加したいと思います。」
また、ものづくりの楽しさを伝えること以外にもこんな考えがあります。
「最近よく聞くのが、子供達が喧嘩で手加減をせずに、とことん暴力を振るって大怪我をしてしまうことです。それは、小さい頃から怪我をしたりする経験が少なくなってしまっているからではないかと考えています。そういった意味でも、もの づくりの楽しさを体験するとともに、刃物などでちょとした切り傷などの小さな怪我をすることで人の痛みをわかかるということも一つの勉強になると思っています。」
(写真上:平成21年度愛媛県職業能力開発促進大会出展作品『森の囁2』、写真中下:平成20年度出展作品 『やすらぎ』と『年輪』)
技能グランプリで技を競う
前田さんは過去計5回、技能グランプリに参加し、2位2回、3位2回の成績を修めるなど、その技を全国の舞台で競ってきました。
「この世界に入った者にとっては、技能グランプリが最高の舞台です。その中で自分の実力を試すことはとても幸せなことです。技能グランプリ参加までは、どこか自分の作品に自信が持てないこともありましたが、参加後はより自信が生まれてきた気がします。職人として一皮剥けた経験になりました。」
技能グランプリへ向けての練習はどういったものでしょうか。
「毎日懸命に練習していないとなかなか厳しいです。時間制限がありますので、あらかじめ手順を全て頭に入れます。競技中はちょっとでも迷ったり、間違えてしまうと時間内には作ることはできません。とても緊張感があります。」
技能グランプリの魅力や、作品が完成したときの気持ちを教えてください。
「全国各地から我こそはといった、素晴らしい腕を持つ職人さん達が集まって技を競い合いますから、独特の雰囲気があります。そんな雰囲気を味わえるところは、他にはありません。また、普段会うことのない職人達と交流することや、職人仲間ができることも技能グランプリの魅力の一つだと思います。作品が完成したときは、『やった、ついにできた!』という何とも言えない達成感と同時に、疲れて果ててその場に座り込んでしまいますが、時間内に完成したことでホッとします。死ぬまでに、必ず技能グランプリで優勝したいです。」
(写真上:平成18年度 第24回技能グランプリ大会風景 この大会では第2位の成績を修めました。写真中:完成した作品、写真下:前田さんの作品の前で大勢の職人さんや観客が興味深く見つめ、一際注目を浴びていました。)
若手技能者、若者達へのメッセージ
幼い頃からの夢を叶えた前田さんらしいメッセージをいただきました。
「少しでも興味のあることや好きなことがあるのなら、是非その道へ進んでいって打ち込んでほしいです。また、ものづくりの魅力は自分で作ったものは世界にただ一つだということです。もし、ものづくりの道に進まなくても、その喜びや楽しさを体験して、それを周りの人に伝えていってほしいです。今後の私の夢は、見る人をあっと言わせる木工工芸品を作ることと、技能グランプリで優勝することです。皆さんも夢に向かって一歩ずつ歩んで行ってください。」
現在、作品展に向けて「見る人をあっと言わせる木工工芸品」を制作中とのことです。「是非楽しみにしていてください。」と笑顔で仰っていました。
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