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熟練技能者から若者達へ
 県内の熟練技能者とものづくり現場の紹介

熟練技能者の紹介  熟練技能者が活躍する現場とは
● 取材編 〜熟練技能者は熱く語る〜 ● ものづくり工場の紹介
● 紹介編 〜熟練技能者の紹介〜  

熟練技能者の紹介
  取材編 熟練技能者は熱く語る

深田 登生男 氏 フカタ  トキオ
深田 登生男 氏

建築大工


[Profile]
昭和17年12月18日生まれ (67歳)

菅野建設株式会社 工事部長
住所 愛媛県大洲市田口甲30-2
電話 0893-24-2329

昭和33年菅野建設株式会社に就職
以後、技術の研鑽に努め、木造住宅や社寺仏閣を数多く手掛ける


昭和48年 一級技能士資格取得(建築大工)
昭和48年 職業訓練指導員免許取得(建築科)
平成16年 全技連マイスター認定
平成19年 愛媛県職業能力開発協会長表彰 職業訓練功労者


 大洲城天守閣や有形文化財臥龍山荘など数多くの木造住宅及び社寺仏閣の新築、改修等に携わる。規矩術に優れ、木材の木取りから墨付けまで全ての工程をこなすことができ、様々な在来木造工法技術を保持している。会社の枠を超えた技術指導を行うなど、顧客からはもちろん地域大工からも、業界の第一人者として高い評価を得ている。昭和62年から平成19年まで大洲建設業共同高等技術専門校建築科で訓練生の実技、学科の指導員を務め、現在もボランティアで地域若手大工に指導をするなど、技能の継承、後進の育成に大きく貢献している。


大自然に囲まれて

深田さんは昭和17年大洲生まれ。豊かな森林や美しい清流、遠くまで広がる田畑など日本の典型的な田舎の風景の中で育たれました。

「昔はふんどし一つで木に登ったり、小川に入って泳いだり、どろんこになって駆け回ったりして遊んだものです。自然に触れ合うことは、本当に楽しかったです。自分の将来を決めるとき、実は他の職業を目指したい気持ちもあったのですが、木や土など自然のものを扱う大工さんになるのもいいかなと思って、見習いとして入職しました。」

昔ながらの徒弟制の中での厳しい修行時代については

「先輩も怖いし、親方のじっちゃん達も怖くてね。入職当時の私はほんと小坊主でしたから。半泣きで修行しましたよ。辛いときは、寝る前に布団の中で涙したものです。休憩中にご飯を食べるのを惜しんで道具の使い方を練習してると、たまにその先輩方が教えてくれたのが嬉しかったです。そういう修行を積んできましたので、少々の事ではへこたれたりしません。本当に厳しい修行のおかげで今の自分があるんだと思います。」

当時は修行するお弟子さんも多く、その中で一番を目指して必死になって努力を続けます。

「生存競争とでも言いましょうか、当時はお弟子さんも多く、自然と競争心が湧いてきました。その中で一歩前に出ようと思えば並大抵のことでは務まりません。いつまでも使われる側ではなく、早く使う側になりたいと思って、休憩中や夜寝る時間を削って、必死に修行に励みました。その成果もあって諸先輩方を追い越して、比較的早くリーダーに抜擢されました。三年目には現場を任されるようになり、木を切るところから始めて、全てを段取りし、修行中に必死になって覚え、習得した技を実行して家を建てることができるようになりました。」

(写真上:平成16年復元−大洲城天守閣、写真下:平成9年改修−有形文化財臥龍山荘)


ものづくりへのこだわり

自然のものを使った建築物への思いについて語っていただきました。

「樹木は初春から夏にかけて、大量の水を吸い込み大きく成長します。そして、秋から真冬にかけては眠ります。その間油を蓄え、年輪が形成されます。若いときはどんどん成長し、80年もすればあまり水を吸わなくなり、油を蓄え始め、横に太っていきます。人間も樹木も同じです、若いときはどんどん食べて体が大きくなって、年を取るとそんなにご飯を食べなくなるでしょ。また、木を切るタイミングも重要で、いい時期にじっくり油を蓄えた樹木を切ると色艶が全然違います。いつまでもピカピカ輝きます。そんな樹木を使って家を建てることは、私からしたら最高なんだけどね。そこまで吟味して樹木を切る人は少なくなってしまいました。また、土壁も非常に人間の健康にいいんです。壁が呼吸し、悪い空気を吸って良い空気をはき出してくれます。特に日本は四季がありますので、自然のものを使うことは本当にいいんです。」

戦後海外からの文化が入ってくるようになり、日本人の生活様式が大きく変化する中で、住宅における建築手法も、住宅に対する考え方も大きく変化してきたようです。

「今の多く人の考え方は「早く」「安く」がいいみたいです。ハウスメーカーさんが、早くて一週間ぐらいで建てるのがあるでしょう。昔は各地域に大工さんがいて、その地域の特色や風景などを深く理解して、その地域の材料を使って家を建てたものです。やはりその地域にはその地域なりの良さがありますから、建築物もそれに合ったものが一番いいんじゃないでしょうか。たまに地方に出かけたときに『この地域には、良い大工さんがいるなぁ!』と感激する風景に出会うことがあります。ついついそこの大工さんにお会いして、握手してお話したくなるような。また、お客さんと大工職人の距離も近かったです。お客さんにお茶を出していただいて、世間話したり、職人技を見ていただきながらコミュニケーションを深めたものです。「毎日お仕事お疲れ様です。」や「今日は遅くまで頑張りますよ。」なんてね。非常に残念なことに、今ではお客さんとの交わりが少なくなりました。そして、住宅の建築方法等が変わり、大工さんへの仕事の依頼が少なくなる中で、職人さんの値打ちも段々下がってきました。厳しい修行を積み、いい腕を持った職人さんでもメシが食えなくなってしまい、別の職を選ばざるを得なくなった時代が長く続いています。そういった中では、いい職人さんも育ちにくくなってしまいました。時代の流れには逆らえないということでしょう。」

深田さんは社寺仏閣の建築において在来木造工法に優れ、その卓越した技を駆使し数多くの社寺仏閣などの建設に携わってこられました。

「社寺仏閣は、いまの建築工法でやるわけにはいけませんからね。在来木造工法で建設しています。おかげさまで県内はもちろん県外からもご依頼をいただいています。私の建築物へのこだわりはどことなく『柔らかさ』や『優しさ』を感じられる建物の『雰囲気作り』です。その秘訣は、例えるなら京都の女将さんの着物の着方のように、家を建てることです。お客様にも『柔らかさ』や『優しさ』を感じていただいたり、大工さんに『あんたの建てた建築物はわかる。』と言っていただくことは、職人冥利に尽きます。」

(写真3点:在来木造工法−箱鎌継(棹継))


技能を継承したい

深田さんは建築物を学ぶため、どこに行ってもありとあらゆる建築物を見たり、スケッチをしたりするそうです。

「特に京都は四季を問わず素晴らしいです。全体の風景から、奇抜なデザインのJR京都駅から、有名な社寺仏閣などの建物全て。どこに旅行に行くにしても、何か学ぼうと考えているとより一層面白いです。是非、若手の大工の皆さんも自身の近くの建築物や社寺仏閣に目を向けてほしいです。」

昭和62年から平成19年まで大洲建設業共同高等技術専門校建築科で訓練生の実技、学科の指導員を務め、現在もボランティアで地元若手大工に指導をするなど後進の育成にも尽力されています。

「訓練生に実技と学科で、主に規矩術や、木材の切る時期、切り出し方、どうやって使うのかなど基本的なことを指導していました。左官の方にも来ていただいていましたので、左官と大工で話す場を持てていたことは非常によかったです。大工は左官さんの仕事の知識も必要ですから。おかげさまでこの業界で長く携わってきて、やはりいろんなことがわかります。この辺りでは、一番の年寄りかもしれません(笑)よく他社の方から、うちの職人に指導をしてくれとか、私が建てた建築物を見て全体の雰囲気が気に入ったから是非教えてくださいというような依頼も頂いております。そのような相談をいただくことは、私にとっても非常に嬉しく、名誉なことです。皆さんに教えることや、若い方に伝承することで、地域の建築レベルが少しでも上がるようになればと思っています。」

  

(写真3点:在来木造工法−貝の口継ぎ)


若手技能者、若者へのメッセージ

田舎の風景を眺めると心が安らぎ、どの景色よりも素晴らしいと語る深田さん。是非、現代の若者にも身近にある自然を眺めてほしいと語っていただきました。

「テレビやパソコンを見るのももちろんいいことですが、心も体もリフレッシュするつもりで身近にある自然や遠くの景色を眺めてもらいたいです。悩みや考え事が吹っ飛びます。」

深田さんの仕事観、人生観について教えていただきました。

「人間山あり谷あり回り道をしながら、成長していくものだと痛感しています。例えば、人とけんかしたり、仕事などで伸び悩んだり、壁にぶち当たってもそれは決して無駄なことではありません。生まれて何もかも順調にいって、あることを極めてしまうのは、つまらないことだ思っています。人生は一度きりです。一生懸命生きて、みんなのためになることをして、誰にも迷惑を掛けずに、パッとあの世へ逝くのが理想です。」

今後の夢について。

「一回は五重塔を一部でもいいから建ててみたいです。また、法隆寺の改修工事にも関われたらたらいいなと思っています。大手建築会社さんや工務店さんには負けないという気持ちは持っているんですが、実現するのは難しいかな。でも我々にとっては、たまらない名誉のある仕事です。」

現在は、地元大洲神社改修工事の現場監督として、活躍されています。「腕が鳴る、非常に楽しみです。」と笑顔で語っておらました。

(写真上:在来木造工法−槍鉋で木材を加工、写真下:原寸デザインを描く深田氏)


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